2016年12月21日
社会・生活
研究員
可児 竜太
12月17日、法政大学経済学部・竹口圭輔教授と中央大学商学部・久保知一准教授の合同ゼミが法政大学市ヶ谷キャンパスで開かれた。2、3年生の学生4~5名が1チームとなり、計5チームが最近の研究成果を発表するものだ。筆者も、旧知の両先生からお誘いを受けコメンテーターとして参加した。60人超の学生が一同に会する、大変盛況な発表会となった。
いずれのチームもアイディアと創意工夫に富んだ素晴らしい発表だった。例えば、「耐久消費財のコモディティ化の分析」や「新規ブランドが自社内の既存ブランドの価値にもたらす影響」といった実際のビジネスに対する示唆に富むものがある一方で、「芸能人の結婚報道がスポンサー企業の株価に与える影響」といった非常に個性的で好奇心をそそるものもあった。
特徴的だったのが、多くのチームが統計的な実証分析に重きを置いていたことだ。基本的な回帰分析は当然として、イベントスタディや分散分析といった統計手法も用いられていた。
これは、筆者が学生であった2000年代半ばとは異なる印象を受けた。もちろん、専攻や指導教授の方針により違いはあったであろう。しかし、社会科学系の専攻において統計的な実証分析を用いるのはそれほど多くなかったように思う。筆者も当時、統計ソフトを使うべきと思いつつも敷居が高かったため、簡単に扱える表計算ソフトに付属するツールを多用していた。
さらに遡ると、様子は一層異なっていたようだ。筆者は大学院生の頃、とある教官に「昔は回帰分析をすればそれだけで修士論文になった」と言われたことがある。コンピューターを容易に利用できない時代、手計算で回帰分析をするだけで大変な労力だったからだ。
しかし現在、個人のPCの計算能力は向上し、記憶媒体の容量も増加した。統計ソフトも格段に使いやすくなった。そのため、今の大学生の研究ではStataやSPSSといった統計パッケージソフトを使いこなすことが当たり前のようだ。また、アンケート調査も、かつては調査票を紙で配布・回収し手入力で集計していたものが、「Googleフォーム」などの汎用ウェブサービスを使うことで効率的に行えるという。ちなみに、当日の各チームの採点およびコメントにもGoogleフォームを利用。参加者は事前に通知されていたURLにスマートフォンでアクセスし、各チームの得点とコメントを入力する。これにより、非常にスムーズな集計が行われていた。
このような技術の発展が、大量のデータを扱う実証分析のハードルを一気に押し下げた。しかし、久保先生によると、「学生の研究も統計ができるだけでは差がつかない時代になった」そうだ。技術が進歩しても決して楽になるわけではなく、より斬新な着眼点を得る努力が必要になるということだ。そのためであろうか、発表の中にはビジネスへの示唆を意識したものがいくつか見られた。
このような研究手法の発展を目の当たりにすると、我々もまたこれまでと同じやり方をしていたのでは新たな視座を提供することは難しいと痛感する。いまや大抵の情報や考察がクリック一つで手に入り、それをまとめるだけで「それらしいもの」ができてしまう。そんな時代だからこそ、実際に足を運び、見聞きして得られた独自の経験とそれに基づく発想が重要になってくるのであろう。
当日の発表の様子
(写真)筆者
可児 竜太